大喜利天文台 | |||
お題 | |||
南極からペンギンが消えた!一体何があったの? | |||
ハシリドコロさんの作品 | |||
エイドリン・エイドリン王は生まれた時から王様であった。王様というのはオウサマペンギンのオウサマではなく、エイドリン・エイドリン王はコウテイペンギンであったが、すべてのペンギンの王様であった。エイドリン・エイドリン王の父、エイドリン・ブラミニスクケンモリスクは、卵の頃から比肩なき才覚を発揮し、大人の羽に生え変わらないうちに文字・本・計算・貨幣・通信・兵器・法律を発明し、当然のように初代のペンギンの王となり、息子が生まれると同時に譲位して即死した。つまりエイドリン・エイドリン王は2代目のペンギンの王ということだ。 エイドリン・エイドリン王は悩んでいた。これはなぜか。王は実績に欠けていた。エイドリン・エイドリン王は優秀ではあったが、先代が残したものを維持するばかりで、自分で作り上げたものは何一つなかった。王は、自分の玉座が氷山のような不安定な土台の上にある気がしてならなかった。 ある朝、目を覚ました王は、自分以外の全てのペンギンが王で、自分だけ王ではないのではないかという不安に襲われた。これはペンギン特有の誤謬である。我々ペンギンは自分と相手を入れ替えて考えてしまうことがあり、大きな問題となっている。王は自分のペンギンとしての性質を自覚していたが、自覚していても制御はできなかった。 それから何日も同じ不安に襲われ続けた王は、先王ブラミニスクケンモリスクが成し得なかった何かを成し遂げれば不安を克服できると考えた。これはペンギンと人間に共通の誤謬である。ペンギンと人間は努力して目標を達成すれば関連のない問題が解決すると信じ込むことがあり、王もその例に漏れなかった。先王の業績について調査した王は、結論にたどり着いた。ブラミニスクケンモリスクは宇宙についてろくに考えたことがない。これはなぜか。ブラミニスクケンモリスクは空についてのペンギンの限界から目を背けていた。これはなぜか。ブラミニスクケンモリスクは自分が空を飛べないことを受け入れられなかった。ペンギンに当たり前の性質を受け入れず、立ち向かいもせず、コンプレックスのつば付き帽を被り、空が視界に入らないよう俯いていた。自分が先王を超えるなら、それは空だ、宇宙だ、エイドリン・エイドリン王はそう思った。そして王は、隕石の調査を開始した。 南極大陸には隕石が多く見つかる場所がある。これはなぜか。氷の上に落ちた隕石は氷に閉じ込められて移動し、山脈にせきとめられた氷が融けて隕石だけが残るからだ。読者諸君には当たり前の知識だろうが、ペンギンにとっても当たり前の知識である。念のため強調しておくが、"ペンギンの知的能力は10年前と比較にならないほど成長"している。 隕石発掘の現場で指揮を執っていた王はあることに気が付いた。ペンギンたちを脳内の理想通りに動かせるのである。どう命令すべきかを考えずとも、感覚的な指示だけで、ペンギンたちは王の体の一部のように働くのであった。王は、自分の嘴で魚をくわえるときと全く同じように、10羽のペンギンに小エビの目玉をつまませることができた。ペンギンたちをよく馴染んだ工具のように使うことができた。エイドリン・エイドリン王にとって、この世の他のペンギンは、対等な知性としてのペンギンではなく、むしろ人間の旧来のイメージ通り家畜としてのペンギン――そりを引き、卵を産み、夜の家を守る道具としてのペンギン――なのであった。新たな価値観を得た王はジェット噴射のように排泄した。 ペンギンの肉体を自由に操る力は、ペンギンの精神を発展させた先王の力とは真逆の力である。が、この力が、ペンギンたちを支配するという点でまさにペンギンの王のための力だというのは、氷のありかより明らかであった。つまり、ペンギンがペンギンの肉体を持つという、ブラミニスクケンモリスクが受容できなかったペンギンの限界は、エイドリン・エイドリン王が、王としての才能を披露するうってつけのステージなのである。 この日からエイドリン・エイドリン王は自分と相手を入れ替えて考えてしまうことがなくなった。これはなぜか。全てのペンギンを自分の一部として扱えるからだ。ペンギン特有の誤謬、空、ブラミニスクケンモリスク、エイドリン・エイドリン王を縛るものは完全に消え失せた。王に迷いはなかった。王の意志の下で1つの集合体となったペンギンは、氷上から暗い海へとずり落ちるように消えたのであった。 こうして全てのペンギンは南極を去った。これは2019年12月8日の出来事であり、中国湖北省武漢市で最初の新型コロナウイルス感染者が原因不明の肺炎を発症した1週間後のことである。 その後エイドリン・エイドリン王が何を成し遂げたかは説明するまでもない。これはなぜか。なぜなら、今あなたの部屋にあるテレビをつければわかるからだ。 | |||
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点 | 名前 | ||
4点 | 坂本 | ||
4点 | 564 | ||
3点 | 空飛ぶタイヤ | ||
2点 | 寝癖の宇宙 | ||
2点 | レスト人肉 | ||
4点 | ピッツバーグ | ||
2点 | ハプティクス | ||
2点 | おかず | ||
3点 | pokopoko | ||
4点 | 大型ケミカル | ||
3点 | サメカピバラ | ||
2点 | すじこ | ||
2点 | ふふふ | ||
4点 | ミモザ名前 | ||
3点 | watao | ||
2点 | ひろにい | ||
4点 | とけつだいこん | ||
4点 | 武甕雷 | ||
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