大喜利天文台
お題

画像で一言
サメVS巨大タコスさんの作品
工場の朝は早い。
社員寮から日の出と同時に家を出るとシャッターの閉まった商店街を抜けて国道沿いに歩けば工場に着く。

工場ではひたすらバッグ・クロージャーを作る。バッグ・クロージャーでピンとこない人は食パンの袋を留めるアレと言えば伝わるだろう。ただあれは別に食パンの袋を留めるためだけにあるのではない。袋詰めされたモノ全般にバッグ・クロージャーは使われる。最初はリンゴを袋詰めするのに使われてたって工場長が言ってたっけ。だけど僕はこのバッグ・クロージャーが何を留めているのか知らない。大方食パンだろうがそれは僕の関知しえないことだし、知ろうとも思わなかった。

工場の夜は遅い。
一日の労働を終えて工場を出ると辺りは真っ暗だ。国道を歩くと人気の無い商店街が見えてくる。立地的には寂れてはいないはずだが何せ遅い時間なのでシャッター街になっている。そこには誰ひとりいるようには思えなかった、一店舗を除いては。

深夜の商店街の中で輝く店舗は仲間とはぐれた蛍みたいだった。その店は寂しい僕の心を癒やしてくれたが、僕はその店に入ったことは無かった。

なぜなら僕がその店の前を通る時、必ずシャッターを女性の店員が閉めているのだ。だから僕が商店街を抜け終えた直後には完全に商店街は漆黒の闇となる。それは僕にとっては光を与えながらも僕を明確に拒絶するように見えた。

そんな毎日が続く中、僕の中でその店の存在感は日に日に増していった。あれは何の店なのだろう。広さ的にそば屋かな、でも漬物とかも売ってそうだったな。あの女性店員は。そういえばあの女性店員はどんな顔をしているのだろう。

僕はあの女性店員が長い髪を後ろで束ねているのも、左手に金属製の時計を付けてるのも、シャッターを閉めるときに鼻歌で蛍の光を口ずさむ癖があるのも知っていた。でもシャッターに隠れた顔だけを僕は知らなかった。それは僕の中のモヤモヤを増大させた。彼女の顔を隠すシャッターは小野小町の顔を隠す御簾に見えた。

思えば昼休みに商店街に行ってその店でそばでも食べてくれば良かったのかもしれない。でも僕はそれをしなかった。僕は彼女にこれ以上に近づきたかったしこれ以上に近づきたくなかった。

僕はふとあの店の漬物を留めるのにバッグ・クロージャーが使われていたことに気づいた。確かに一般的に漬物にバッグ・クロージャーは使われていない。でも確実にあの漬物を留めていたのはバッグ・クロージャーだった。僕はせめてでもバッグ・クロージャーを通じて彼女と通じていたかった。僕は初めてこのバッグ・クロージャーが何を留めるのかが気になった。

季節が秋から冬に変わる頃、僕はベルトコンベアに手を挟んでバッグ・クロージャー工場をやめた。社員寮を出た僕は地方都市からさらに田舎にある実家に帰った。実家の最寄りの商店街は本当にシャッター街でそこには当然彼女はいなかった。

コメント
ただ顔が気になるキモい奴じゃねーか
「僕」の中で全てが自己完結していてキショい
仕事の姿勢が変わった描写の直後に仕事辞めるなよ
あれ、バッグ・クロージャーって名前なんだ
こういう奴が日本の少子化を進めている
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