大喜利天文台 2部
お題
馬鹿「しまった、今日土曜日だ」

どうしたんですか?
vioさんの作品
馬鹿は荒野を歩く。
殺伐として、低い草木がまばらに生えるのみの荒野を歩く。
現在地も、目的地も、日時も、彼にはまるでわからなかったが、原因だけは確かに彼の記憶にあった。

どれほど前かもわからないある朝、彼は朝食を食べながらテレビを見ていた。その中での歯ブラシのCM。前歯をキッと剥き出して、こちらを向きながら歯ブラシを動かす女優。彼は、その女優と目を合わせてしまったのだ。途端に、彼の脳は歯ブラシに曝された。脳のシワ1つ1つを女優に磨かれるような錯覚にもがくうちに、気づいたら、彼はこの荒野に居た。彼はこの日をアポカリプスと呼んでいる。

彼には正確な日時はわからなかったが、"曜日"だけは彼の中に存在していた。とは言っても、それは彼のその日のイメージにより決定される、実際の曜日とは異なるものである。彼の曜日に対するイメージはおおむね一般的なものに即していたが、1つ珍しいこととして、彼の土曜日は「空虚」の日であった。(彼はこれを「サワコの朝」があったからだとしている)

木曜日が3日間続いたのちのある日、彼はえろ本を拾った。表紙にえろい女が描いてあったので、間違いなくえろ本であった。この荒野には、食料からえろ本まで、いろいろな物が落ちている。彼は、すぐにはその本を開かなかった。えろい物を見る時間は、夜だから。

我慢して、荒野を歩く。えろ本のことを考える。
荒野を歩く。えろ本のことを考える。
何らかの鳥の卵を見つける。えろ本のことを考える。
卵を割るのに失敗する。えろ本のことを考える。

結局、夕方にはそのえろ本を見てしまうことに決めた。

そして、夕方。夕日が正座してえろ本の前に佇む彼を照らしている。
心臓の動きを自覚しながら、震える手で、えろ本の表紙をめくる。
直後、彼を襲ったのは困惑であった。
そのページには、確かに女が居た。しかしその女は、普通の服をきちんと来て、こちらを向いて微笑んでいる。えろさとは全く無縁で、慈愛すら感じさせるような顔であった。
そして、特別に彼を困惑させたのは、その女の顔に確かな見覚えがあることだった。どこかで、必ず見たことがある顔。えろどころではない。しばらく頭をひねって、そして思い出した。

この女は、アポカリプスの女優だ。

「しまった」
彼がそう思うや否やえろ本は膨れ上がり、アポカリプスの女優は人間の姿をもって彼の前に現れた。いつの間にか夕日は間近に迫り、彼とアポカリプスの女優を強烈な逆光の中に閉じ込めている。
アポカリプスの女優はピカチュウのコップを持ち、微笑んでいた。彼は、因縁とも言える人物を目の前にして、ものを言うことすらもできなかった。
何も起こせないまま少しの時間が経った後、アポカリプスの女優はふと真面目な顔になった。そうしてコップと彼とを交互に見て、また微笑んだ。真っ赤な夕日は溶けるように揺らいでいる。
そのピカチュウのコップは彼が子供の頃に使っていたものなのだと、彼は気づいていた。夕日は笑うように揺らいでいる。
アポカリプスの女優は、優しい声で『ふるさと』を歌い出した。夕日はコップを溶かす。
夕日は彼の目前にまで近づいていた。
歌が終わると、夕日はアポカリプスの女優をつかまえてしまった。
女優は、ついに微笑みを崩さないまま、コップもろとも夕日に吸い込まれていった。
夕日は沈んだ。

暗い空の下、彼は呆然としてへたり込んでいた。
えろ本は、表紙のえろい女を轢き殺すかのように、白紙のページばかりをさらけ出していた。
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3点涙の川とエクボ
3点フォークソング研究部
2点遠くを見ている
3点すかいどん
2点否定から入るオンザビーチ
3点もらってく
2点あの日のニンニ
2点A味噌汁
2点空飛ぶタイヤ
2点たくめ
2点サジットアポロ
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2点Vermouth